今夜あなたをまつり縫い

31歳独身女のただの日記。仕事は縫製工場です。手先の器用さに自信あり

販売会の翌日はファッションショー

工場の中はミシンの音が響き渡るのだが、午後からは気分転換のためにラジオが流れる。
かつては、音楽の有料放送が流れていたらしいのだが、不景気になるとお金の掛からないラジオになった。
ミシンの音が響き渡っていても、同僚らは案外ラジオを聞いてるため、ニヤけるタイミングが皆同じ。

私がミシンで縫っているのは、某ブランドの衣類。
私が働く工場の社長はヤリ手のため、各種ブランドの衣類を縫っているのだが、薄給の私では買えない。

パートのオバちゃん、「〇〇は有名なブランド?」
私、「うん、有名。この前、△△さん(著名人)が着てたわよ」
オバちゃん、「何処で売ってるの?」
私、「ブランドショップ。知らんけど」
オバちゃん、「私達が縫ってるスカート、幾らで売ってるの?」
私、「ショップで買えば5.6万するんじゃないかな。知らんけど」
オバちゃん、「あんなのが5.6万もするの」
オバちゃんが、「あんなのが」と表現するのは無理もない。なぜなら、私達が縫っているブランドのスカートとは、どっちが前でどっちが後ろなのかイマイチ分からない奇抜なデザインだから。

家で家族と食事をしていると
母親、「明日、販売会でしょ?」
私、「うん。来るの?」
母親が言う販売会とは、私が作った衣類を、工場の空きスペースで格安で販売すること。
ショップで買えばメッチャ高いのだが、傷物や在庫品のため破格。

工場が販売会をするのは地域貢献ではない。決算で現金が必要だからだ。
販売会を任されるのは、若くて見た目の良い従業員。
なのに、同僚のオバちゃんらは、販売会の日は、普段しないメイクをバッチリしてくる。

工場が普段と違う匂いがするのは、従業員のオバちゃんらがコロンを付けてくるから。
そのコロンのせいで、年配工場長は咳き込む。
工場長、「販売会はAさんにやってもらうから」
すると、オバちゃんらが一斉に不貞腐れるのは、販売会を任されたのは工場長お気に入りの事務員だから。

販売会の日は、事務員も、いつもよりメイクが濃く、普段しないラメ入りのマニキュアをしている。

工場長、「受付はBさんがやって」
Bさんとは私のこと。
受付を任されるってことは、今日の私はイケてるってこと?

パートのオバちゃん、「貴方が選ばれたのはコールセンターで働いてたからよ」
ババアは言わないで良いことまで言うため、ムカつく。

販売会には、工場で働いている者の家族や近所の人、普段付き合いがある弁当屋さんなどが来てくれる。
普段、ミシンの音しかしない工場でも、色んな人が来てくれて賑やかになる。

販売会の翌日、町が騒然とするのは、私の母親など年配のオバちゃんらが、ブランドショップで売っている奇抜なデザインの服を着て町を颯爽と歩いているから。